野山にまじりて、石を割る。

栃木県と周辺の鉱物。

2022年9月3日

栃木県最大の鉱山にして、わが国最強の銅鉱床である足尾鉱山。産出鉱物の記録は常軌を逸していて、30センチの自然蒼鉛、10センチの蛍石、30センチの紫水晶クラスターなどなど、完全におとぎ話の世界です。

ところが現在では、ほとんど鉱物の観察はできません。廃石の大半は、公害防止堆積場の底に沈んでいるのでしょうね。という訳で、基本的に良いものは得られませんが、せっかくなので小石を少々拾ってきました。

 

鉄重石 Ferberite

FeWO4

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白色の石英脈に、紙より薄い鉄重石の板状結晶が無数に突き刺さっています。

足尾鉱山は銅で有名ですが、鉱床の中心ではSn・W・Biなど、高温の熱水活動に伴う鉱物の産出が知られているそうです。

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転石なので、少々擦れが目立ちます。鉄重石としては貧弱かつ、産状もありきたりですが、足尾産は意外と出回ってないんじゃないかな、とか思っています。

 

塩化蒼鉛土 Bismoclite (?)

BiOCl

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先に言い訳しときますが、肉眼同定なので信頼性はかなり低いです。普通に石膏かも。

Bi鉱物らしき物が付いてたけど、トリム中に消し飛んだので、ヤケクソで母岩を刻んでたら現れたもの。とても小さい。

 

2022年8月5日

今回は、以前開拓したアメシスト産地で、その残りを回収してきました。

脈延長部や平行脈が無いかを確認するだけのつもりで今回訪れた訳ですが、幸運にも、再び素敵な水晶を得る事ができました。

前回は掘進に夢中でしたが、せっかく鉱脈露頭から採集できる機会なので、シロウトなりに詳しく観察しつつ、採集を行いました。

その露頭がこちら。

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は?鉱脈どれ?って感じですが、大抵はこんなもん。左上~右下に延びる、ぼんやりした赤茶色の部分(Quartz vein)がそれです。

母岩である頁岩は、変質を受けて粘土鉱物を生じているようで、軟化しています。

特に、石英脈と接する部分では、完全に白っぽい粘土に変質して、ネチョネチョしてました。写真では、脈の上盤側に白っぽい筋として写っています。

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石英脈を取り出したもの。濃い紫の粗粒な結晶が、不規則な方向に成長しています。

ただし、このような部分はごく一部で、ほとんどは全く空隙の無い白色石英。その一部が半透明~透明石英に漸移して、更にその中心付近に紫石英ができるっぽいです。

脈幅はだいたい5~7cm程度で、露出している部分はほとんど直線の脈でした。頁岩のような、明瞭な層理面を持つ岩石が母岩の場合、脈は直線的になりやすいようです。

そんなところで、成果物に移ります。

 

石英 Quartz

SiO2

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ガマ出し魅惑のアメシスト

ガマというと、空洞の中に煌びやかな結晶が乱立している様子を想像するかと思いますが、実際には、破砕された母岩と脈が主体の土砂に、分離した状態の水晶が含まれているパターンが多いです。

ちなみに、土砂とは言っても、多くの場合、二次的に生じた酸化鉄などで膠結されているため、シャベルで簡単に掘り出せる、というようなものではないです。

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これは透明度が高く、明瞭なファントムが見えます。結晶成長の途中で、条件の変化があったという事でしょうね。

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紫っぽいモノ達の集合写真。どういう訳か、濃い紫に着色しているのは大きな結晶のみで、小さい結晶は無色に近いです。根元だけ紫が見えるものが希にありました。

ズリから採集されたものと違って、結晶の先端や稜にスレが無くて美しいです。

 

正長石 Orthoclase

KAlSi3O8

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いわゆる氷長石。熱水変質帯では、よく現れる鉱物と思います。

標本価値は皆無ですが、アメシストを生成した熱水が、どのような性質だったのかを知る手がかりになるかと思い、一応拾ってきました。

この他に各種硫化物と、その分解生成物がみられましたが、さすがに拾いませんでした。

2022年7月1日~2日(その4)

秩父産としては、さほど良い物ではないのでしょうけど、なんとなく記事にまとめてしまったので、供養がてら投下しておこうと思います。

私は秩父初心者なので、このレベルの物でも、喜んで拾ってきます。


灰礬柘榴石 Grossular

Ca3Al2(SiO4)3

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泥質の堆積岩は、わりとアルミニウムを豊富に含むので、そこに石灰岩からカルシウムが供給されると、柘榴石ができるらしい。

これ自体は普通の反応ですが、ここまで発達してるのは、やはり秩父ならではです。

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露頭では、泥質ホルンフェルスが、粗鬆な柘榴石の集合に漸移する様子がみられます。

 

磁鉄鉱 Magnetite

Fe3O4

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黒い部分は全て磁鉄鉱。ホッパー投入口?付近にあったので、出荷予定だったのかと思いますが、結構な量の黄鉄鉱が混ざってます。

精度の良い選鉱設備があれば、不純物の多い鉱石でも利益を出せたようですが、そういう理由なのかはわかりません

2022年7月1日~2日(その3)

水晶や柘榴石といった、誰が見ても分かる鉱物というのは、採集による強い淘汰圧にさらされ、既に絶滅しているか、ロクな物が残ってない場合が多いですよね。

一方、地味で細かな物たちは、メインターゲットにされにくい分、案外良いやつが生き残ってる場合があります。

最近は、そういう地味な物たちを探す方が、面白いと感じるようになってきました

 

くさび石 Titanite

CaTiSiO5

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あまり確信は無いですが、石英中の橙色楔型結晶がそうだと思います。

色が同定の鍵にならない鉱物は、結晶形が明瞭じゃないと、良く分かりません

くさび石は副成分鉱物として色々な岩石に含まれますが、肉眼的な結晶を探すとなると、産地は限られるようです。

 

菫青石 Cordierite

Mg2Al4Si5O18

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沢で拾った妙な岩石。白く縁取られた、黒い結晶が多数含まれています。

気になって、持ち帰り観察したところ…

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暗紫色ガラス光沢の結晶が、黒い結晶に混じっていくつも含まれていました。

ここでの産出は(私が知る限り)聞いたこと無いですが、たぶん菫青石だと思います。

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黒い部分は、降温過程で緑泥石などに置換された仮晶かと想像しています。

分析した訳ではないので鉱物種は確定ではありませんが、これは少し驚きました。

 

2022年7月1日~2日(その2)

秩父鉱山とその周辺は、産出鉱物が多種多様で、何度訪れても飽きさせない産地です。

国内のスカルン鉱床は大きく分けて、灰鉄輝石中の鉛・亜鉛鉱石を主体とする神岡型、柘榴石中の鉄・銅鉱石を主体とする釜石型、そして秩父鉱山を筆頭とする秩父型の3つに分類されます。

秩父型は、神岡と釜石、両方の鉱石を併せ持ち、更に多量の黄鉄鉱(とマンガン)を伴う事が特徴だそうです。この辺が、産出鉱物の多様さに関わっているのかもしれません。

 

ベスブ石 Vesuvianite

Ca19Al11Mg2Si18O69(OH)9

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方解石に埋没するベスブ石。結晶約5mm。このレベルならまだ無限にあります。

柘榴石と似ていますが、ベスブ石は含水鉱物なので、若干みずみずしく見えます。

なお、結晶内部は不可視のクラックだらけなので、割っても酸処理しても、大抵の場合崩れ去るのみです。

結局のところ、自然の風化で現れた面が、一番美しいんですね

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これはやや緑っぽいタイプ。

所々に尖った四角柱の結晶が見えます。これもクラックだらけですが、溶け出した石灰分で固結されて、結晶の形を保持しています。

 

霰石 Aragonite

CaCO3

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方解石に置き換わってるとの噂もありますが、とりあえず霰石と思う事にします。

方解石とベスブ石から成る露頭が、霰石の脈に切られていて、その脈の空隙に柱状結晶がたくさん生えていました。

 

鉄斧石 Axinite-(Fe)

Ca2FeAl2BSi4O15(OH)

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長らく後回しになってた斧石。今回、ようやく探してみましたが、あまり良いのは見つかりませんでした。

しかし硼素は好きなので、誰かが捨てたやつをとりあえず頂戴しきてました。

2022年7月1日~2日(その1)

 

Twitterでも投下した、こちらの晶洞。

母岩は閃緑岩ということで、クソ固いのかと思いきや、案外簡単に割れました。せっかくなので、剥いで持ち帰ります。

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立派ではないですが、小さい水晶や長石の自形結晶がびっしり生えています。

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晶洞の面(上面)付近は、明らかに黒雲母などの有色鉱物が少なくて白っぽいです。アプライト脈かと思いますが、よく分かりません

 

正長石 Orthoclase

KAlSi3O8

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長石は見てもわからないので、氷長石という事にしておきます。やや透明感があるところが良いですね。暗緑色柱状結晶は緑簾石

結晶粒の大きさに変化が無く、均質な岩石に現れる晶洞なので、正確にはペグマタイトとは言えないように思います

 

緑簾石 Epidote

Ca2Al2Fe(SiO4)3(OH)

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石英や長石の隙間に、細かい緑簾石がたくさん生えていました。これも透明感があって綺麗ですが、いかんせん小さすぎて、手持ちの古代式デジカメではまともに写りません。

花崗岩の晶洞ではあまり見かけないと思いますが、ここではごく普通に現れます。花崗岩より苦鉄質鉱物の多い、閃緑岩を母岩とする事に関係してそうです。

 

2022年6月4日(後編)

前回に引き続き、阿武隈山地の石。

阿武隈変成岩にも色々あるようですが、今回探査したのは竹貫変成岩類。主に泥質片岩~片麻岩や、結晶質石灰岩から成ります。

そして竹貫変成岩類からは、ラテライト(Al、Feに富む陸源性の風化土壌)が原岩と考えられる、アルミナ質の特異な片麻岩が見いだされています。

今回は、その中にみられる、メチャクチャ見栄えのしない鉱物を投下していきます。

 

十字石 Staurolite

Fe1.5Al9Si4O22(OH)2

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黄褐色の粒状結晶。なお矢印は一番目立つ粒を指してるだけで、黄褐色の粒はほぼ全て十字石でした。母岩は珪線石と柘榴石の混ざった片麻岩で、ほとんど石英を含みません。

岩石の研究する上では重要な標本でも、単純な鉱物標本としては何とも言えない感じ。

 

コランダム Corundum

Al2O3

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コランダムの裂開面?らしきもの。以前の探査で数mm大の結晶は確認してるけど、これもコランダムなのかは微妙。

無色~帯桃色ですが、鉄スピネルや磁鉄鉱を包有して、ほとんど灰色っぽく見える。

 

珪線石 Sillimanite

Al2SiO5

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ほぼ全体が珪線石の塊。

微小なものは広く産する珪線石ですが、こんな塊で出てくるというのは知らなかった。

白雲母の分解で生じたものだそうです。

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寄りだとこんな感じ。このような繊維状の集合をフィブロライトと呼ぶそうです。

1cm程度のルーズな柘榴石が混ざって、豆大福みたいな感じの物もありました。