野山にまじりて、石を割る。

栃木県と周辺の鉱物。

2023年12月30日

かつて珪長石や石材の採掘が行われていた、大変有名なヤマに行ってきました。

この手の有名産地は、ヒトがたくさん居たり、ゴミが散らばってたり、そもそも石が枯渇してたりと、あまり良い印象はありません。

そんな理由から、今回は半ばハイキングのつもりで訪れており、正直、成果物への期待は無かったです。まあ結局何かしらは持って帰りますけど。

 

1.産地の様子

やや目の細かい花崗岩を、粗粒のペグマタイト脈が切っています。このような塊や露頭が無数にみられます。

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花崗岩の岩肌には、石材を切り出すため、クサビを打ち込んだ痕跡が残されていました。緑色は、単なる藻類か地衣類です。

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2.産出鉱物

鉄コルンブ石 Columbite-(Fe)

FeNb2O6

 

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鉄のニオブ酸塩。ニオブ(Nb)は、いわゆるレアメタルの一種で、特殊な鉄の合金や伝導体の用途に用いられるらしいです。

当産地では、クリーブランダイト的な長石に埋没して産することが多いみたいです。

また、磁鉄鉱や鉄電気石は産しないため、現地でも視認は比較的容易でした。

 

緑柱石 Beryl

Be3Al2Si6O18

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ベリリウムとアルミニウムの珪酸塩。

2cmに満たない不定形の欠片は、一見するとガラス片のようですが、エッチングされた面の形や、入り組んだ凹面にも結晶面が認められる点から、緑柱石と判断しました。

誰かがフルイ掛けした後、捨てた砂利の中に混じっていました。貧相過ぎて捨てたか、気づかなかったか、どちらかですね。

 

同行した若人は、産地で一心不乱に地面を見つめていました。その初々しい姿に懐かしささえ覚えます。ジジイになったもんだ。

今回は2023年締めの石拾いでした。新年も、良き石とめぐり会う確率を高めるため、死なない程度に精進します。

 

以上

2022年11月26日

岩石に高温の熱水が浸透すると、造岩鉱物である長石や石英が分解されて、カリウム・ナトリウム・カルシウム・珪素などが溶けて流れ去っていくそうです。

一方、難溶性のアルミニウムやチタンなどは、岩石側に残ります。したがって、岩石は変質が進むほど、アルミニウムに富む組成に変化していくらしいです。

そうしてできた岩石は、ろう石として採掘され、耐火材などとして利用されます。

今回は、そんなふうな石です。

 

苦土フォイト電気石 Magnesiofoitite

Mg2Al7Si6O18(BO3)3(OH)4

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石英、葉蝋石、ダイアスポア?などに埋没する球顆状集合。集合体の中心と辺縁とで、明らかに類帯があります。

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一見地味ですが、何とも言えない緑を帯びた黒っぽい色みと、柔和な絹糸光沢が、良い感じの風合いを醸し出していると思います。しかし、それを写真で表すのは結構難しい

 

デュモルチ石 Dumortierite

Al7BSi3O18

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葉蝋石やダイアスポア?の混合物に埋没する、青色葉片状結晶たち。結晶面が光を反射する部分もみられます。

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デュモルチ石というと、角閃石のような針状結晶や、それらの球顆状集合の印象が強いですが、葉片状の物もあるのだろうか?

母岩はかなりアルミナっぽくて、コランダムが来てもおかしくはなさそうですが、文献にはデュモルチと書いてあるので、ひとまずそう思うことにします。

 

金紅石 Rutile

TiO2

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暗赤色金剛光沢の、微細な粒状結晶。ちなみに画像下側の白く反射してる結晶は、鋭錐石ではなく単なる石英です。

石英中に微細な金紅石が散らばっていて、全体としてはピンク色に見えます。紅柱石かと思い拾ってきましたが、良く見れば石英と金紅石の混合物であることが分かります。

2022年11月12日

あまりの気候の良さに開拓精神が爆発しまして、以前に目を付けておきながら、放ったらかしになっていたヤマを探査しました。

ターゲットは単純な裂か充填石英脈。母岩は頁岩・砂岩・凝灰岩・花崗閃緑岩および、これらの巨礫からなる礫岩。石英脈中の金属を対象に、過去に鉱山として稼行された実績があり、幾つかの坑口は確認済み。

脈は尾根沿いに走っていて、表土も厚くないため、比較的追跡しやすかったです。というか、脈とその周囲の母岩が珪化を受け、それが尾根として残ったのでは?とも思えます

 

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石英脈の最も露出が良い部分。ちょうどここで脈が膨張しており、晶洞(ガマ)を形成していました。ハンマーの切先あたりなのですが、画像ではなかなか分かりにくいです。

なお、この露頭はオーバーハングしていて、あまり派手に叩くとヤバそうだったので、軽くちょっかいを出す程度に留めました。

派手なヒカリモノや、未知の鉱物を得られた訳ではありませんが、ある程度のサイズの水晶は出てきたので、一応記事にしてみました

 

石英 Quartz

SiO2

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晶洞は粘土で充填されていたためダメージはほとんど無いですが、結晶面の半分ぐらいは微小水晶で覆われているため光沢は微妙。良く言えばドゥルージークオーツ。

この微小水晶、明らかにベースの大きな水晶の一方向に偏って付着してますが、どういう理由なんでしょうね。雪が降り積もるのと同じように、微小な水晶が降り注いだのだろうか?

2022年10月8日~9日

銀黒ツアーと題しまして、伊豆半島各所で含金銀石英脈だけを拾ってきました。若干ストイックなツアーと思います

伊豆はご存知の通り、金・銀の産出地として古来より有名で、160箇所に及ぶ露頭が見いだされています。多くは安山岩など中性~塩基性火山岩類に伴う含金銀石英脈で、銀黒といわれる縞状・皮殻状の鉱石が有名ですね。

各鉱床ごとに石の雰囲気に違いはありますが、正直だいたい一緒だし色々と面倒なので、記事は全部まとめて一つにしました。

 

自然金 Gold

Au

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かつて採掘された含金石英脈が、海中で円磨されたもの。個人的に、現地性が担保されない円礫はあまり好まないのですが、これは例外的に結構気に入ってます

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海中で石英どうしが擦れ合うと、バレル研磨を施したようになり、かなり平滑な研磨面が現れます。すると破断面では視認不可能であった自然金などが、けっこう簡単に見つかるようになります。

また、黄鉄鉱などの硫化物に埋没していた自然金も、硫化物の風化・溶脱が進み、見つけやすくなる効果があるようです。

 

針銀鉱 Acanthite

Ag2S

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石英脈中の黒色縞状部分。上端は晶洞内壁。

こちらは一般的なズリで得られたもの。やや空隙の多いガサついた感じの石英脈で、酸化鉄の汚染が目立ちます。

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黒色部分の拡大。この画像では分からないですが、細かい自然金?を伴っています。

破断面に、ささくれ立っている部分があることから、針銀鉱などの可塑性を有する鉱物が含まれていると判断しました。当たってるかどうかは分かりません。

 

黄鉄鉱 Pyrite

FeS2

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外観的には、石英脈に濃黒色の縞状構造がはっきりと現れており、高品位の銀黒鉱石のように思えます。

しかし、似たようなサンプルを顕微鏡で観察すると、結構な量の微細な黄鉄鉱が含まれていました。Au・Agの含有がゼロという事は無いにしても、おそらく黒色部分は黄鉄鉱が優勢のような気がします。

2022年9月23日~24日(その2)

今回はちょっと珍しいタイプの鉱床。

プロピライトを母岩として、黄銅鉱主体の網目状鉱脈鉱床が形成され、これが二次富化を受けて生じたデュルレ鉱(輝銅鉱)を対象に稼行した鉱山です。

 

デュルレ鉱 Djurleite

Cu31S16

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帯青色金属光沢の部分。しかし他の硫化物と混じり合ってるようです。白い部分は濁沸石。厳密には輝銅鉱などと区別不可能なので、とりあえずデュルレ鉱としておきます。

デカい塊を得たかった訳ですが、この一粒を見いだすのが精一杯でした。

 

亜鉛銅鉱 Aurichalcite

Zn5(CO3)2(OH)6

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何となく割った石に、孔雀石とは明らかに異なる色合いの鉱物が付いてたので回収。

母岩はプロピライトで、白いのは方解石。母岩は緑色の孔雀石に被われてます。

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拡大すると鱗片状結晶面の反射光は見えるが、肉眼的にははほとんど粉状。

別なCu・Caの硫酸塩鉱物を期待しましたが、組成的に方解石と共生しないような気がするので、水亜鉛銅鉱と判断しました。

 

濁沸石 Laumontite

CaAl2Si4O12・4H2O

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変質した岩石には普通に現れる沸石ですが、鉱山のズリとして沸石がたくさん落ちてるのは新鮮でした。しかしグズグズの脈ばかりで、残念ながら標本価値は低いです。

2022年9月23日~24日(その1)

今回は秋の山梨巡りに行ってきました。ほうとう食って、温泉も入って、ぶどうは最盛期と、観光でも大変よいところでした。そう、台風さえ来てなければな(ずぶ濡れ)

大雨と濁流に阻まれ、幾つか行程の変更を余儀なくされましたが、念願の葡萄石をはじめ、各種鉱物を得ることができました。

 

セリウム褐簾石 Allanite-(Ce)

CaCeAl2FeSi3O12(OH)

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ちっさいけど明瞭な結晶。電気石っぽいけど多分褐簾石で間違いないと思います。

もう少し大きく割り取りたかったけど、トリムに失敗してこんなサイズに。というか、母岩の堅さに対して褐簾石が脆弱なため、結晶を浮き立たせるような整形は難しいです。

 

葡萄石 Prehnite

Ca2Al2Si3O10(OH)2

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山梨といったらブドウ!白色の葡萄石脈の空隙に、球状集合がみられます。

トティギ周辺では、葡萄石-パンペリー石相の変成に伴う鉱物産地が無いので、葡萄石がレアミネラルのように感じます。

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結晶面が長方形ベースなので、三角形ベースの石英(水晶)とは容易に区別可能です。光沢も少々柔らかで、砂糖菓子のようです。

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濁沸石を噛んでいるらしく、全体的に母岩が脆弱で、こちらもトリムが難しいです。

 

濁沸石 Laumontite

CaAl2Si4O12・4H2O

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濁沸石って茹でたカニの身みたいですよね。

もっとデカい脈とかもありましたが、どうせ脱水して灰塵に帰すので要りません。地盤や標本に、濁沸石が含まれてると強度が低下するため、各方面で嫌われてるようです。

2022年9月10日

各種稀産鉱物を産した事で有名な御斎所鉱山に行ってきました。Mnヒ酸塩や南部石が欲しくて、過去にも何度か訪れていますが、今のところ全敗となっております。そして今回も、しっかり敗北しました。

何の成果も得られませんでしたァでは救いがないので、悔し紛れにリュックにブチ込んできた石たちを紹介したいと思います。

 

エジリン輝石 Aegirine

NaFeSi2O6

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褐色葉片状の集合がエジリン輝石。ベースはバラ輝石で、橙色のスポットは南部石。

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エジリン輝石の大きな結晶が入った石は、どういう訳か変な形に割れやすく、据わりの良い形にトリムするのに難儀します。

Na輝石グループという事で、Feの半分以上がAlに置き換わると、翡翠輝石となります


フェリゴーセ閃石 Ferri-ghoseite

NaMnMg4FeSi8O22(OH)2

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珪岩に橙色の薄層状で含まれてるやつは、コレだと信じる事にしました。他の角閃石とは区別できないけど、絹糸光沢のある繊維状集合だし、とりあえず南部ではない。はず。

分解しやすいのか、黒いマンガン酸化物に覆われてる事が多いようです。量は結構あるけど、きれいな集合は意外と少なかった。

 

“磐城鉱”  Jacobsite-Q

MnFe2O4

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黒色部分は全部、強烈な磁性あり。

磐城鉱はヤコブス鉱と異なり、石英と共生できる事が特徴だそうで、そうなると、石英と直接する標本が欲しくなります。

この石は磐城鉱を石英とバラ輝石の細脈が切っていて、特徴が良く現れています。ただし磁鉄鉱かもという疑義はある。